■トリコモナス(Trichomonas fetus)は猫に多く見られる原虫疾患で、
大腸性の下痢を主訴に来院します。
ライトギムザ染色した猫トリコモナス(写真1)
トリコモナスは大腸性の下痢を主訴に来院します。困ったことに、検便法では検出が低く(14%)、遺伝子検査 検出率(86%)が必要な場合もあります。今回の症例はタイミングが良く、検便でトリコモナスが発見されました。確定診断のためライトギムザ染色をしました。(写真1)
■この猫のプロフール
1才の猫が下痢を主訴に川崎市多摩区南生田から来院しました。水溶性の下痢が頻回みられました。このトリコモナスは動物病院の現場では、慢性の大腸性下痢になり来院するケースが多く筆者の動物病院では6ヶ月-1年令の間の猫が多いです。
トリコモナスはやっかいなことに検便直接法で14%と検出率がよくありません。また複数回の検便と硫酸亜鉛遠心法を併用しても検出率はたかくありません。
そこで、RealPCR検査という遺伝子検査をオーナーに提示する場合もあります。この遺伝子検査ですと86%のトリコモナスはみつかります。しかしRealPCR検査は検査費が高く、本院ではオーナーの了解がとれないこともあります。そこで、あまり良い方法ではありませんが、私が猫トリコモナスに駆虫効果があると考える薬剤のトライアル治療もしています。RealPCR検査はそのほか写真のような病気の診断ができます。(アイデックス社の資料より)下痢疾患ではトリコモナスは3番目に多いみたいです。
トリコモナスは臨床症状がなければ感染猫の90%が無治療で2年以内に改善します。しかしその後生涯その猫はキャリアーとなります。
また排泄便はすぐに処理する必要があります。経口感染して次回の感染の源になるからです。よって駆虫しても再発する場合もあり、動物専門学校で発生したケースでは、治療には半年かかった場合もありました。
治療
■メトロニダゾール(Metronidazole)
このトリコモナスがなぜ大変かといえば、抗原虫薬の定番メトロニダゾール(商品名 フラジール®・アスゾール®)(写真)が効能を示さないことが多いからです。
また100%治る薬剤はないと考えられています。本院でも手探り状態で治療薬を選択しています。
■チニダゾール(Tinidazole)
そこで筆者の経験では猫のトリコモナスにチニダゾールが良好と考えています。チニダゾールは耐性寄生虫がおきにくい薬剤です。
この猫は2病日目に下痢も止まり元気になりました。
家庭で2匹飼っている方だったので、もう1匹にもチニダゾールを飲ませてもらいました。
また糞の始末もしっかりしてもらいました。
しかし多頭飼育の場合など、なかなかこのようにうまくいなない症例もあり長期間薬剤が必要なこともあります。
今回の症例は、無事なおりよかったです。
追記 2年経ちましたが、下痢の再発はありません。
■ロニタゾール(Ronidazole)
海外ではロニタゾール(Ronidazole)が良いという見解もありますが日本では発売されてません。
(本院もロニタゾールはありません)