■マンソン裂頭条虫(Spirometra erinaceieuropaei)
写真①、当院の症例で猫の肛門から排泄されたマンソン裂頭条虫の成虫
写真②、頭部拡大図
マンソン裂頭条虫は犬猫の腸管内では頭節、片節を形成しいる長い寄生虫で体長は6-15cmあります。(写真①②)
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マンソン裂頭条虫は擬葉条虫類に属し、寄生体との固着ために、頭節の背腹両面中央に縦に走る扱溝があることが特長で、吸盤、吻など他の固着器官はありません。体壁に子宮孔(産卵孔)があり(写真③)、虫卵(写真⑤)が寄生体の腸管内に排泄される点で診断にはまず検便が必要です。
{備考・円葉条虫類のウリザネ条虫は子宮孔(産卵孔)がなく、片節で便中に排泄されます。最大の相違はこの点です。}
まれに縦横比が1対1.5で中央に子宮塊が明瞭な成熟した横長(円葉条虫類に比べると)の片節が数個連なり成虫として肛門から排泄される場合もあります。(写真②)
中間宿主は2種類が必要です。虫卵は未発育の状態で排泄されます。1-4週間水中で発育してコラシジウム(六鉤幼虫有り)を形成します。コラシジウムが泳ぎ出て第一中間宿主のケンミジンコに食べられ体内でプロセルコイドになります。(10日間)、次に第二中間宿主カエル・ヘビ・などに補食され体内の腸管を穿通して体腔内で臓器、組織に移行してプレロセルコイドになり、終宿主の犬猫に食べられることを待ちます。感染すると犬猫の消化管で約1.5年生きます。
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⑥ マンソン裂頭条虫、虫卵 55-65×30-40μmで非対称性です。
感染は野外へ行く猫や、散歩する犬が第二中間宿主のカエルなどを食べる場合に診られます。当院では室内飼育の犬猫の来院が殆どなので多くは診ませんが症例の殆どが猫です。
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■マンソン裂頭条虫感染の臨床症状
今回紹介した3例は寄生虫疾患に多い嘔吐、下痢などの臨床症状はありません。マンソン裂頭条虫は中間宿主が2種類も必要なため、1回感染したら次いつ感染できるわからない『ヤドカリのような寄生虫』です。動物に少量感染したのみで頑固な嘔吐、下痢など臨床症状が現れたら、条虫自身も生死を彷徨うことになります。そこで寄生動物の腸管の栄養を多くは採らず、少しだけ頂き、臨床症状を出さず、気づかれないように寿命を全うする寄生生活を送っています。そのため片節は動物の腸管の円柱上皮と同じような構造をしています。
しかし普段は臨床症状がないマンソン裂頭条虫ですが、外傷などストレスをうけると、嘔吐、下痢などの症状を伴う場合が多くなり検便により診断できます。
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■マンソン裂頭条虫の駆虫
マンソン裂頭条虫駆虫にはプラジクアンテルを瓜実条虫駆虫の約6倍量が必要です。
そのためプラジクアンテル注射剤のドロンシット注射剤®が投与量の調節が容易なため広く使用されています。
注意点として、犬猫の体内でマンソン裂頭条虫の全ステージの生活史がある訳ではなく、終宿主の犬猫は第二中間宿主を捕食して虫卵を排泄するのみです。生活史途中からのステージ参加なのでプリパテントピリオドが5-10日位と短いことが重要です。カエルなどを食べる癖のある犬猫は駆虫して外に出すとすぐに捕食してしまい5-10日過ぎてまた虫卵が便中に排泄されることもあります。『プラジクアンテル効果なし』と勘違いしてセカンドオピニオンで当院を訪れたケースもありました。そのため可能な限り外に出ないなど第二中間宿主と接触させない十分な配慮が必要です。
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■人畜共通の疾患です。
マンソン裂頭条虫はヒトにも感染する場合もありマンソン孤虫症と呼ばれています。(下記の備考参照)
原因は犬猫同様第二中間宿主のカエル・ヘビなどを食べることでおきます。またどうしても食べるときは十分加熱するなど注意は必要です。飼育しているイヌ、ネコに感染が診られてもヒトには直接は感染しません。重要なことはヒトはマンソン裂頭条虫の固有宿主ではないので、感染した場合は成虫にならずに、幼虫のまま体内にいることがほとんどです。そのためマンソン裂頭条虫の発見はヒトの皮下などに幼虫が『こぶとして』診られる場合が多いです。また脳や内臓に寄生していて大変な場合もあり、疑られる場合は人畜共通の疾患に詳しい医師にお尋ねください。
備考・ヒトの皮下などに『こぶとして』診られる寄生虫は多くは以前同定できなかったので、『孤虫症』という病名がつきました。その後の研究でマンソン裂頭条虫の幼虫と判明したので、現在ヒトへのマンソン裂頭条虫の感染は『マンソン孤虫症』の呼称が使用されています。
写真⑦ 目黒寄生虫博物館に展示されているマンソン裂頭条虫
左⇒イヌ、ネコ、右⇒ヒト、
ヒトはマンソン裂頭条虫の固有宿主ではない為、幼虫で皮下などに存在するので虫も小さい。