■瓜実条虫(Dipylidium caninum) について
ヒトで瓜実顔とは、瓜の種のように、色白でやや面長な顔のことをさします。
瓜実条虫の名前の由来は、このいいなづけに始まります。
この条虫は老化すると、面長な片節を糞便と共に排泄します。(写真2,3,4参照)
これがヒトの瓜実顔と類似していることから、瓜実条虫の名前がつきました。
犬、猫、フェレットに感染報告がありますが、本院の症例は猫がほとんどです。
発育するために中間宿主としてノミの関与が必要です。
最近はノミ駆除剤がよくなったので診ることは少なくなりました。
しかし症例数は少ないですが、人畜共通の寄生虫なので注意は必要です。
(写真1)瓜実条虫の全体像、目黒寄生虫博物館
瓜実条虫は円葉条虫類に属し、成虫は小腸内では腸管内で50cm位になり、小さな頭節と多くの片節になって寄生します。(写真1)
頭節は 頭頂に伸宿自在な吻があり、それに鉤を備えています。頭節は4つの吸盤があり、これらで宿種の腸管にとりついています。
片節は2-3mmで、1つひとつ続いてできます。後端が成熟片節です。(写真2,3,4参照)
片節に雄と雌の生殖器があり雌雄同体です。ひとつの片節内でも交尾が可能ですが、他の片節とも交尾が可能です。寿命は栄養状態などで異なりますが約1年です。
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(写真2)肛門付近に瓜実条虫の片節が診られたケース
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(写真3)瓜実条虫、片節 250-1000μm)
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(写真4)時間たつとこのように米粒みたいに乾燥します。
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(写真5)円葉条虫類の模式図
(外部・内部寄生虫の駆虫薬 鈴木 透、CAP No294 2013 12より)
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(写真6)この瓜実条虫を押捺します。
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(写真7)押捺した標本の顕微鏡の400倍所見です。
卵嚢が沢山見られます。卵嚢の崩壊で虫卵は外界にでます。この写真では確認できませんが、卵殻内に6本の鉤をもつ幼虫(六鉤幼虫)とそれを取り囲む幼虫被膜がみられます。
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■瓜実条虫の診断
円葉条虫類は産卵孔がなく、(写真5)虫卵は便に産出されることは殆どなく、片節内に虫卵が溜まることが特徴です。(例外を除く)
組織内の代謝活性が低下すると、ひとつひとつの片節がちぎれて便と共に排泄されます。虫卵が溜まった状態で片節で外界に排泄されます。(写真2,3,4)
そのため診断はこの成熟した片節の発見でおこないます。顕微鏡を使用した検便よりも視診で発見できる寄生虫です。ただし瓜実条虫の来院はあくまでオーナーの視診に委ねていることが多く、また罹患した動物は臨床症状も少ないため、感染率は過小評価になっていると予想されています。実際、生前の検便・視診では発見されてない個体を病理解剖した報告ですと、意外に多く瓜実条虫は発見されています。
『しらすのような虫が便についてきた』 『米粒のような虫が糞について驚いた。』『「さっきまで白い虫が動いていて気味悪かった。』という稟告で来院します。
片節は肛門の回りに付くこともあります(写真2)。縦長で排泄間近の時は動きますが時間の経過とともに米粒のように乾いてきます。(写真4)
片節が消化管内で壊れる場合もあり、検便で卵嚢(写真7)の検出により、診断可能な場合も希にあります。
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(写真8) 猫ノミ
すべてのネコノミに瓜実条虫が感染している訳ではなく、調査よればニュージランドではノミ1578匹に0匹ですが、フロリダではノミ403匹に4匹、オーストラリアではネコノミ4281匹78匹、イヌノミ1092匹34匹に瓜実条虫の擬嚢尾虫が存在している報告があります。
生活史に戻ります。ノミが中間宿主です。外界で露出した卵嚢(写真7)はノミの幼虫(1-3令)に捕食され、ノミ腸内で六鉤幼虫が離脱します。ノミの羽化後10日で尾部をもつ擬嚢尾虫(シスチセルコイド)に成長します。感染後1ヶ月で尾部もなくなり成熟した擬嚢尾虫になり、その後ノミの腹腔内に移動します。するとノミの 動作が鈍くなり、犬猫(終宿主)が皮膚をグルーミング時に摂取しやすくなり経口感染します。10日ほどで寄生したペットから片節が糞便に診られます。
■瓜実条虫の人への感染は希にあります。
多くの感染例はありませんが、瓜実条虫は人畜共通の寄生虫疾患です。ヒトへの感染様式はノミを偶発的に誤食することでおきます。そのため飼育しているペットは、毎年、ノミを含めた積極的な定期駆虫が理想です。
ヒトは犬猫と異なり、終宿種ではないので、居心地はよくありません。消化管には感染はなく、体内移行して、希に眼、脳に感染し大変なことになる場合もあります。ヒトへの感染の疑いのある場合は、寄生虫に詳しい医師の診察をお薦めします。(日本医師会のホームページなどで探されるのが良いと思います。)
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■治療
治療は中間宿主のノミの駆除と、瓜実条虫の駆虫剤プラジクアンテルの2剤併用が原則です。
プリパテントピリオドは3週間ですが、中間宿主のノミ駆虫ができなと瓜実条虫は約16-21日で再寄生する可能性があります。
写真7 プラジクアンテル含有製剤
条虫駆虫剤プラジクアンテルはプロフェンダー®スポット・ドロンタール®・ドロンタール®プラス・ドロンシット®をなど様々な剤型があり、皮下投与、経口、皮膚滴下すべての投与法で同一の駆除が可能です。猫条虫もこの瓜実条虫と同じプラジクアンテル投与量で駆除は可能です。
プラジクアンテルの作用機序は条虫は消化管がなく、その代わりに片節の外皮の表面に多数の突起があり、この突起(外皮に作用)より薬剤が侵入して、外皮を空洞化して条虫の虫体を破壊します。
写真8 ノミの駆除剤
セラメクチン、フィプロニール、イミダグロプリドは皮膚滴下、
スピノシド、アフォキソラネルは経口剤です。
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(写真9)プラジクアンテル(写真右)含有のプロフェンダーとマイフリーガード(成分名フィプロニール)、ともに皮下滴下剤
効能外使用になりますが
①本院では、プロフェンダースポット®(写真右)皮膚滴下して、2cmあけて、マイフリーガード®(フィプロニール製剤、写真左)の皮膚滴下を指示しています。
同一メーカーの製品は2-3cmあけて同時に皮膚にたらして併用は可能なことは実験済みなので、プロフェンダースポット®(瓜実条虫駆虫)とアドバンテージプラス®(ノミ駆除)2剤を選択する場合もあります。
写真9の組合わせは別メーカーなので、実験はしてませんが、両薬剤を経口した場合のデーターから考慮して、使用は可能であると推測されてます。
本院ではこれまで副作用は経験はしてません。
②滴下する日を1日ずらし滴下場所を変えておこなって使用する方法を薦めている動物病院もあります。
③滴下剤の併用に抵抗がある場合は経口ノミ駆除剤のスピノシドを使用して、プラジクアンテルを皮膚に滴下してもらっています。
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