犬用コクシジウム駆除剤、プロコックス®が販売されました。
2017.06.14更新
■犬用コクシジウム駆除剤、プロコックス®が販売されました。
2017年9月に日本初、犬用コクシジウム駆除剤プロコックス®が販売されました。
有効成分はトルトラズリル(コクシジウムの抗Isospora作用)にエモデプシド(犬回虫、犬鉤虫、犬鞭虫駆除剤)を配合した合剤です。日本で犬用コクシジウムは初の認可薬です。
犬用、プロコックス
コクシジウムにはイソスポラ科(オーシスト内のスポロシスト2つ、スポロシスト内のスポロゾイト4つ)とアイメリア科(オーシスト内のスポロシスト4つ、スポロシスト内のスポロゾイト2つ)の2種があります。
犬猫はイソスポラ科の感染でおき、ウサギはアイメリア科でおきます。
トルトラズリルは単独製剤は、すでに大動物用でバイコックス®という商品名で2008年に販売されています。当院ではこれまで、効能外使用の承諾を取ったうえで、犬、猫。うさぎ、文鳥、ニワトリのコクシジウム症に投与して、副作用もなく、良好な成績を上げてきました。この薬剤はイソスポラ科のみではなく、アイメリア科にも効果があるよう考えています。
■犬のコクシジウム
犬のコクシジウムはIsospora canisとIsospora obioensisの2種類の感染でおきます。
臨床症状として、嘔吐、頻回の下痢、血便が診られます。軽度な場合は回復可能ですが、重症なケースでは食欲不振から栄養障害、成長障害をおこし、最悪、悪液質になり死亡したケースもあります。
なお不顕性感染(虫卵の感染は診られるが、下痢など臨床症状がない状態)も多く、ワクチン接種時、偶然検便で発見されるケースもよくあります。
この臨床症状があるなし、重傷化は、感染年齢、摂取オーシシトの数、全身の健康状態により決まります。
また鶏では病原性の強いコクシジウム(Eimeria.tenellaの一部の株)と、弱いコクシジウム(Eimeria.acervulinaなど)が存在します。
一般的に、検便のみで臨床症状の重症化や、強弱の鑑別は不可能なため、コクシジウムを発見したら駆虫剤の投与がベストです。
コクシジウム生活環の特徴は無性生殖と有性生殖のステージをとることです。(1参照)
胎盤、経乳感染はなく、臨床例で多いケースでは、生後3-13週令の犬がオーシストを経口して感染は成立します。感染したオーシストはまず無性生殖を行います。腸管でスポロゾイト、トロフォゾイトとなり、腸管粘膜上皮細胞に感染しシゾントを形成します。シゾントはメロゾイトを放出し腸管粘膜上皮細胞を破壊します。多くの遊離したメロゾイトが、再び残存している腸管粘膜上皮細胞侵入し第2代シゾントになります。第2代シゾントは大量にあり、より多くの腸管粘膜上皮細胞に寄生し、第2代メロゾイトを放出し多くの腸管粘膜上皮細胞を破壊します。
このシゾントからメロゾイトの形成は栄養状態により異なりますが2-4代繰り返しおきます。
この時点で感染している犬はコクシジウム虫卵の排泄はありませんが、臨床症状として下痢がおきることがあります。(動物病院ではまた日を改めての検便が必要です。数回でコクシジウムは除外できません。)
その後メロゾイトはマクロガメート、ミクロガメートに発育して、有性生殖をしてザイゴートからオーシストを形成します。便ととも未成熟オーシストが排泄されます。排泄した虫卵は3日以内に成熟オーシストになります。
(1) コクシジウムの生活史(バイエル社の資料より引用)
オーシストの経口感染でおきるため糞便を素早くかたずけることが大切です。コクシジウムの環境の整備は下記(1)を参考ください。消毒薬には普通の使用濃度には殆ど抵抗します。
そこで、自宅では床などは、熱湯100度で1-2秒で死滅データーを引用しますが、沸騰させてから床にかけても、床の温度で冷やされ実際の温度は100度でなく低下しています。何度か行うか、熱湯後、洗い流すなどの追加処置が必要です。
また犬ちゅん使用のタオル等は洗濯機で洗浄したあと、コインランドリーまたアイロンの噴射機能の使用をお薦めします。
なお犬の皮膚に糞がついた場合はシャンプーをして、虫卵を洗い落してください。
■(1)コクシジウムの環境の整備
環境 生存期間
砂地(陽当たり) 4ヶ月
荒地(陽当たり) 6ヶ月
湿地 9ヶ月
樹木の多い陽影 18ヶ月
清水中 24ヶ月
乾燥鶏糞(陽影干し) 10ヶ月
乾燥鶏糞(天日干し ) 7ヶ月
熱湯 60度 30分
熱湯 80度 1分
熱湯 100度 1-2秒
熱風 80度 5分
熱風 100度 3分
■プロコックス®の詳細
●トルトラズリル(Toltrazuril)
これまでコクシジウムの駆除に使用してきたサルファ剤はコクシジウムを直接殺滅する訳でなく、無性生殖ステージのシゾントからメロゾイトになる部分の発育をとめ、コクシジウムの免疫が成立するまで増殖を抑える目的で使用されてました。しかし動物により免疫状態は異なるため、薬用量・期間の報告は様々で、一般的に2-3週間位はかかりました。
今回発売されたプロコックス®は無性生殖と有性生殖の両方のさまざなステージに対して、極めて広く作用を及ぼします。基本的には1回の投与で駆虫可能ですが、2週後、経過によっては再投与が必要な場合もあります。
注意点としてコクシジウムで下痢がおきている場合は、この薬剤は下痢に効能を示す訳ではありません。特に仔犬の場合、下痢に対する対称療法は大切です。
●エモデプシド(Emodepside)
エモデジプトは犬回虫(Toxocara canis)、犬鉤虫(Ancylostoma caninum)、犬鞭虫(Trichuris vulpis)に効能を示します。統計上、犬回虫はコクシジウムとの混合感染が多いのでこの薬剤は重宝です。
欠点は、MDR1に変異(脳脊髄門の機能が他の犬より弱い体質)のあるコリー種、およびその系統には注意が必要です。
犬種によってはエモデプシドが入っていない牛用、豚用バイコックス®をオーナー承諾のもと使用するか、サルファ剤を使用した方が安全かもしれません。
犬用、プロコックスと牛用、バイコックス
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■他の動物へのプロコックス®効能外使用例
■文鳥(学名:Padda oryzivora)のコクシジウム(Coccidium)
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